闇黒
江戸東京たてもの園、という野外博物館がある。都内に存在した、江戸時代から現代までの建物を復元・展示しており、東京都が運営する美術・博物館では三本の指に入ると勝手に思っている。
ここに、吉野家(よしのけ)という藁葺きの農家がある。江戸時代後期に建てられたものらしい。雨風、そして日差しを防ぐ深い軒が、空間を抱き込んでいる。遊びに来た子供は「超くれーんだけど」と言いながら、おずおずと中へ入っていく。確かに、明るく照らされた現代の生活からすれば、超が付くほど暗い。僕もそろそろと土間へお邪魔するとしよう。
わずかに裸電球が灯っているおかげで、足下は何とか見える。上がり框(かまち)に腰掛けてしばらく、その空間に身を浸してみることにした。囲炉裏では火が熾り、煙がゆらゆらと漂っている。その端でぼそぼそ話されている言葉が、いやにはっきりと聞こえてくるのが、不思議だ。
目が慣れると、色が見えてくる。鈍く光る三和土(たたき)の黒、手垢の染み付いた柱の黒、煙に燻された天井の黒・・・。暗い、という印象は、ただ光が少ないだけではなくて、そこに存在する様々な黒が響きあって生まれていた。素材・行為・風化・時間といった別々の要素が、互いに絡み、共鳴して、ある一つの「暗さ」に収束する。その豊かな空間は、明るく照らし出されれば、おそらく一瞬に消えてしまうだろう。
アカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ。
人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ。
太宰治
ここに、吉野家(よしのけ)という藁葺きの農家がある。江戸時代後期に建てられたものらしい。雨風、そして日差しを防ぐ深い軒が、空間を抱き込んでいる。遊びに来た子供は「超くれーんだけど」と言いながら、おずおずと中へ入っていく。確かに、明るく照らされた現代の生活からすれば、超が付くほど暗い。僕もそろそろと土間へお邪魔するとしよう。
わずかに裸電球が灯っているおかげで、足下は何とか見える。上がり框(かまち)に腰掛けてしばらく、その空間に身を浸してみることにした。囲炉裏では火が熾り、煙がゆらゆらと漂っている。その端でぼそぼそ話されている言葉が、いやにはっきりと聞こえてくるのが、不思議だ。
目が慣れると、色が見えてくる。鈍く光る三和土(たたき)の黒、手垢の染み付いた柱の黒、煙に燻された天井の黒・・・。暗い、という印象は、ただ光が少ないだけではなくて、そこに存在する様々な黒が響きあって生まれていた。素材・行為・風化・時間といった別々の要素が、互いに絡み、共鳴して、ある一つの「暗さ」に収束する。その豊かな空間は、明るく照らし出されれば、おそらく一瞬に消えてしまうだろう。
アカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ。
人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ。
太宰治
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