胃弱な二人
9/14、新宿東口、バー・カウントゼロ、朝5:30。
外に出ると、湿気で飽和した空気が地上付近で淀んでいた。夕食も食べずにビールを呷り続けてしまったせいで、身体もいやに重い。駅までたどり着けるだろうか。
同じく隣で青い顔をしながらトボトボ歩いている胃弱の青年Hが、「こういう雨の降る直前の感じ、結構好きなんですよね。風景を近く感じますよね。」とセンチメンタルなことを言う。
確かにそうだ。空間が緻密に水の微粒子で満たされている。肌触りを通して自分と風景とがつながっているように感じる・・・などと、かすむ都庁を遠い目で見ながらロマンチックにつぶやいてみたのだが、「いや、ただ単にこのフラットな感じが」と、にべもなくおっしゃる。全く油断ならないのである。
彼らとは織野紀見という個人誌を通して知り合った。西荻の古書店に置かれていたそれを見て、うわーやられた。と思った。そして奥付を見ると、あれ、発行所の住所がなぜかウチと全く同じ。部屋の号数だけが違う。アパートの西端から東端までだからせいぜい十歩ぐらいしか離れていない。突然訪ねるのもなんやしな→メールでも打とか→なぜか不通→じゃあ文通→集合ポストへ投函、という流れで彼らとコンタクトを取った。そのうちグループ展の案内が来て会場で初対面、相手が女性ならちょっとした恋愛ドラマにもなりそうだ。なんせこの広い西荻で、知らず一つ屋根の下に住んでいたのだから。もちろん世の中そんなに甘くはない。ぼそりぼそりと話をしながら、なぜHはカーディガンに雪駄なのだろうと思っていた。
さておき、物事を自分の目と言葉で誠実に捉えたいと希う僕にとって、Hは要注意人物だ。捕捉したと思った時には、もう別のところにいる。話がどこまで本当か分からない。もしかすると天性のペテン師かも知れない。明らかに自分とタイプは違うが、何だかんだと仲良くしているのは、互いに補完しあえる部分があるからだろうか。
Hの写真は、危険で卑猥でインモラルだ。しかしそれは彼の並外れた正直さからくるもので、その領域ではうわべの誠実さなど全く通用しない。ただ瞬間、瞬間に変化し続ける意識と目前の被写体との間にフィルムがあるだけ。そういう意味で、彼の写真は驚くほど真っ当である。
"普通"に憧れているらしい。なのに
自閉症に興味があるらしい。なぜか
缶ビールの飲み口をへこませると旨くなると信じているらしい。
実に捉えどころがない。
いや、そもそも捉えるのは不可能なのだ。会うたびにHこと、秦雅則という新しい人間と出会っているような気がする。その出会いは、僕にとっても至福だ。
外に出ると、湿気で飽和した空気が地上付近で淀んでいた。夕食も食べずにビールを呷り続けてしまったせいで、身体もいやに重い。駅までたどり着けるだろうか。
同じく隣で青い顔をしながらトボトボ歩いている胃弱の青年Hが、「こういう雨の降る直前の感じ、結構好きなんですよね。風景を近く感じますよね。」とセンチメンタルなことを言う。
確かにそうだ。空間が緻密に水の微粒子で満たされている。肌触りを通して自分と風景とがつながっているように感じる・・・などと、かすむ都庁を遠い目で見ながらロマンチックにつぶやいてみたのだが、「いや、ただ単にこのフラットな感じが」と、にべもなくおっしゃる。全く油断ならないのである。
彼らとは織野紀見という個人誌を通して知り合った。西荻の古書店に置かれていたそれを見て、うわーやられた。と思った。そして奥付を見ると、あれ、発行所の住所がなぜかウチと全く同じ。部屋の号数だけが違う。アパートの西端から東端までだからせいぜい十歩ぐらいしか離れていない。突然訪ねるのもなんやしな→メールでも打とか→なぜか不通→じゃあ文通→集合ポストへ投函、という流れで彼らとコンタクトを取った。そのうちグループ展の案内が来て会場で初対面、相手が女性ならちょっとした恋愛ドラマにもなりそうだ。なんせこの広い西荻で、知らず一つ屋根の下に住んでいたのだから。もちろん世の中そんなに甘くはない。ぼそりぼそりと話をしながら、なぜHはカーディガンに雪駄なのだろうと思っていた。
さておき、物事を自分の目と言葉で誠実に捉えたいと希う僕にとって、Hは要注意人物だ。捕捉したと思った時には、もう別のところにいる。話がどこまで本当か分からない。もしかすると天性のペテン師かも知れない。明らかに自分とタイプは違うが、何だかんだと仲良くしているのは、互いに補完しあえる部分があるからだろうか。
Hの写真は、危険で卑猥でインモラルだ。しかしそれは彼の並外れた正直さからくるもので、その領域ではうわべの誠実さなど全く通用しない。ただ瞬間、瞬間に変化し続ける意識と目前の被写体との間にフィルムがあるだけ。そういう意味で、彼の写真は驚くほど真っ当である。
"普通"に憧れているらしい。なのに
自閉症に興味があるらしい。なぜか
缶ビールの飲み口をへこませると旨くなると信じているらしい。
実に捉えどころがない。
いや、そもそも捉えるのは不可能なのだ。会うたびにHこと、秦雅則という新しい人間と出会っているような気がする。その出会いは、僕にとっても至福だ。
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