2008/09/07

フロッタージュ

さっきから待合室で順番を待っている。
もうかれこれ20分になるが、自分の名が呼ばれる気配はない。

ふと目を上げると、白い杖を持った女性が、点字の本をめくっている。
微細な突起群の上に指先を滑らせながら、
彼女の目は、開いている。

隣で楽譜を持った女性が、暗譜を試みている。
机の角をあたかも鍵盤のように叩きながら、
彼女の目は、閉じている。

指先でこすり取っている感覚は、瞬時に視覚や聴覚を呼び覚ます。
その行為は、記憶のフロッタージュだ。